誰もが関わる“死生観”というテーマを楽しく描いた『寿命図鑑』。そのユニークな発想はこんなところにありました。


共に話題となった“図鑑”、『文房具図鑑』と『寿命図鑑』

“小学生が夏休みの自由研究で作った本”として日本テレビ「スッキリ!」やTBS「ビビット!!」など多数メディアに取り上げられた『文房具図鑑』。
その人気はとどまることを知らず、現在5万3千部の大ヒットとなっています。

その『文房具図鑑』出版から約半年後に出版された『寿命図鑑』。
こちらも重版で3万5千部。先日MBS『ちちんぷいぷい』にも取り上げられました。

寿命図鑑 いろは出版

そんな『文房具図鑑』と『寿命図鑑』、実は編集者が同じなのです。
その編集者とは、出版事業部の「かわきち」こと河北亜紀ちゃん

 

いろは出版 河北亜紀

 

今回はそんな彼女のものづくりの現場、『寿命図鑑』の制作秘話をお届けします。

 

324個のいろんな寿命について描かれた『寿命図鑑』
その「ものづくり」の背景とは

―『文房具図鑑』と同時期に制作していた本書。どうして寿命を「図鑑」に?

『寿命図鑑』は、なにか「図鑑」をつくりたい、という気持ちから生まれた企画というわけではなく、「寿命って面白い!」と、いろいろ調べているうちに、「寿命をいっぱいまとめたら新しくて面白い本になりそう、まとめるなら図鑑にしよう」という流れで「図鑑」をつくることになりました。そんなこんなで『寿命図鑑』を制作している最中に、周りの人に「こんな面白い図鑑をつくってる男の子がいる!」と『文房具図鑑』の著者・山本健太郎くんのことを教えてもらいました。

そのあとすぐ健太郎くんに出版のオファーをし、『文房具図鑑』の制作も始動することに。
ある意味わたしが『文房具図鑑』の編集を担当することになったのは、偶然という名の必然なのかもしれませんね!

 

寿命図鑑 アイディア構成

 

―「からだ(細胞)」や「機械」や「建築物」など、普通なら寿命の存在を考えないようなユニークなカテゴリーまで集めようと思ったのは?

制作が始動し、いろいろ調べていくなかで、ふと「そういえば髪の毛って寿命あるのかな!?」とか、「トイレットペーパーってどれぐらいで使いきるのかな!?」と、単純に自分が、ワクワクすること、知りたいことを調べていって、それからどんどん広げていってカテゴリーでくくって…という感じで、結構自分の好きなカテゴリーを集めてました(笑)。
カテゴリーは多い方が面白いなとも思ったので、合計13のカテゴリー分けをしました。

 

 

―本全体のイメージが“天国”になっているのはどうして?

「寿命」というテーマから、本全体のデザインのコンセプトを「天国」にしようということを思いつきました。登場するものたち全てに「天使のわっか」がついてて、星座線をたどって寿命順に読める構成。とびらのページも全部天国。ずっと天国。「寿命」というテーマに合った、いい世界観をつくりあげられたのではないかと思っています。自分が死んだら、肉食動物も草食動物も関係なく共存しているこんな楽しくて平和な天国に行きたい!(笑)

そしてそれを表現している「イラスト」がこの本の肝ですね、、!
イラストを描いたのは大阪で活動しているイラストレーターの「やまぐちかおり」さん。
今までにも私が制作した書籍のイラストを描いてもらっています。

大人にも子どもにも愛されるような、おしゃれでキャッチーで優しいイラストを描けて、ご自身も「遊び心」を強く持った方。猫がヘビをマッサージしてたり、神様がショッピングカートおしてたり、もはやカオス(笑)。けど最高!大好きです。

 

 

―制作中、印象に残っているエピソードは?

単純に、自分の知識がどんどん増えていっているのを体感していたことが印象に残っています(笑)。
彼とデートで動物園に行ったら、「カンガルーの赤ちゃんって2センチぐらいらしいよ」とか、「フラミンゴの赤ちゃんって最初は灰色だけど、お母さんの口から出てくるピンクのミルクを飲んで、ピンク色に成長していくらしい」とか、雑学を披露してた(笑)。
それで、彼に「すごいですね」と言われるのが嬉しかった(笑)。

ただ、カテゴリーが他分野すぎるし自分がどの専門の人間でもないから、調べるのが本当に大変でした。図書館行ったりネットで調べたり、「今日で昆虫終わり!明日から宇宙!」みたいな感じで、毎日毎日調べまくってました(笑)。

 

「生死」は誰もが関わるテーマ
だからこそ親しみやすいもので伝えたい

―子供から大人まで、たくさんの方に手に取っていただいている『寿命図鑑』。編集者のかわきちがこの本で「伝えたいこと」とは何なのでしょう。

たくさんの方々に手にとってもらえて嬉しいです。
最近少しずつ取材も増えてきて、無名の、ほんとに素人の人間がつくった本がじわじわと人の心を動かしていっているのだということにこちらも感動です。

「生死」は誰もが興味を持つテーマだから、ほんとに、「老若男女」に読んでもらえたら嬉しいなという気持ちを込めて、大人にも子どもにも愛されるようなイラストや内容の絶妙なテイストを追求して制作してました。
ただ、「命」の教育ってどうすればいいのかわからない、という親御さんは結構多いみたいで、そういうときに買ってもらえたら少しでも力になれるのかな?と思っています。

実際に読者さんからのハガキで、「うちの4歳の娘は、寿命図鑑を読んではじめて自分がいつか死ぬことを理解したみたい。最近は毎晩娘と天国の話をしています。」という声が届いたこともあります。本が子どもに衝撃を与えることって、すごいような、こわいようなことでもあるけど、もし大人になったときに思い出してもらえるような本になれてたら嬉しく思います。

子どもはいろんなことを知らない人だから、生き物やモノの大事さがどんなものかもわからない。小学生のとき、クラスの男子が、山でつかまえてきたカブトムシを教室に連れてきて机の上で遊んで、弱ってきたら捨ててしまったこともあるし、私自身、お母さんやお父さんに買ってもらった文房具を大切にする気持ちがわかんなくて、すぐ友達にあげてしまったこともある。きっとそういう子どもはいつの時代も少なくないのではと思います。

この寿命図鑑を読んだ子どもたちが少しでも何かを感じとって、生き物やモノを大事にしようとする死生観を身につけていってくれたら嬉しく思います。

 

「制作に協力してくださった方々みんなのアイデアとセンスと頑張りの賜物。これからもっといいものをつくっていけるように精進していきたいです」
と締めくくってくれたかわきち。

友人の子供の誕生日プレゼントに贈る方も多いようで、「親子で楽しめる」とうれしい感想もたくさんいただいています。

今後も、“みんなが楽しめて、何かが残る”。そんなものづくりに期待です。