文章では伝わらない人柄や暮らす土地の温度まで、その人の等身大の姿を写真で伝える。『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs』
6月2日に出版した書籍『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs』。
2006年発売の『1歳から100歳の夢』からスタートし、好評を博している「夢の本シリーズ」では、中学生や高校生、アスリートなど、これまでさまざまな人の夢を集め、世の中に届けてきました。今作は、日本を飛び出し世界へ。
世界201カ国・地域の人々の夢を集めた一冊ができました。
ずっと「夢」というものを大切にしてきたいろは出版の代表であり、この本の制作リーダーであるきむさんが、「聴く耳」を持ってインタビュー!
第四回は、代表者一人一人のポートレートのディレクションを務めたカメラマン日比さんにお話を伺いました。
以下、日比さんときむさんの対談形式でお送りします◎
文章だけでは伝わらない、その人の等身大の姿を写真で伝えられるように。
きむ:『WE HAVE A DREAM』の制作についてインタビューするため、日比くんにも「聴く耳」を持ってきました!日比くん、よろしくお願いします!
日比:きむさん、よろしくお願いします!
きむ:この本は世界201カ国・地域の人々の夢と写真で構成されている本なんだけど、写真はコロナ禍で日本を出れない状況ということもあり、僕たちが直接撮影したものではありません。そんな中、ポートレートで本人のことや語ってくれた夢を表現すべく、日比くんには撮影のディレクションを担当してもらいました。
世界201カ国・地域のうち半分くらいは最初に応募原稿と一緒に送られてきた写真からどれを掲載するかを決め、残りの半分は、日比くんが直接どういう写真を撮ってほしいか、という撮影依頼書を送って夢が伝わるような写真にするための再撮影のディレクションをしてくれました。
この一年半、写真という本の重要な部分で活躍してくれたわけですが、どういう気持ちでこの一冊をつくってきてくれましたか?
日比:この本は世界中の代表者から集まった夢と写真で構成されていて、写真はページの半分を占めている重要なポジションだと僕も感じていました。
みんなの夢の文章は編集チームがいい構成にしてくれましたが、その夢の文章から想像できる範囲外、人柄や住んでいる場所、その土地の温度などを細かく伝えるのが写真の役割だと思います。間違った形でその人を捉えてしまわないように、なるべくその人の等身大の姿を写真で伝えたいと考えていました。
きむ:等身大の姿。夢を語ると嘘はつけなくて、今の自分の姿がよくわかると思います。それを写真で伝えようとしてくれたんだね。
日比:そうですね。ですが、本に掲載されるということで、かっこいい写真を送ろうとして、すごく着飾ったというか、より良く見せようとした写真を送ってくれることもあったんですね。もちろんそれはそれでかっこいいんですが、その人本来の姿ではないと感じたので、「服装は普段着ているカジュアルなもので」とか「普段の生活範囲内の景色で撮ってください」という風にお願いしたりしていました。
きむ:なるほど。日本から撮影のディレクションをして、どんな写真が届くかドキドキだったと思うけれど、中でも印象的な写真はありましたか?
日比:ボスニアのアレンくんの写真ですね。
本当に依頼通りの完璧な写真を撮ってくれたなと思っています。彼の夢は、分断された地域の境界線を乗り越え、若者と異文化世界をつなぐ役割になるということだったので、身近にいる若者たちと一緒に撮影してほしいとお願いしました。場所は街のストリートで撮影してほしいと依頼したのですが、ボスニアの街の雰囲気のが伝わるようなところで撮影してくれて、自分の意図が伝わって形になったことが嬉しかったです。
あとは、ウクライナの9歳のオレクサちゃんという女の子の写真です。
僕は写真の依頼をする前に、実際には行けないので相手の国のことをインターネットで調べたり、Googleのストリートビューでロケハンしたりしていたんですよ。
ストリートビューを2時間くらい見ていると、土地勘もついてくるくらいでした。そうやってウクライナの国のことを調べていくと天気が曇りの日が多かったんですね。
ですが、この本は明るい未来にむけた内容なので、晴れた日の写真がいいのではという意見もあったんです。
でも僕は国の風土が伝わるから、曇りの日の写真のほうがいいとこだわりました。
また、オレクサちゃんが送ってくれた写真は、笑顔ではなかったのですが、笑顔の写真を撮り直してもらおうという意見もあったなか、無理に笑ってもらうのではなく、そのままの表情がいいと話し合ったりもして。チーム内でもどういう写真がいいのか意見が割れていたのですが、等身大のありのままの姿を伝えたいという意見をみんながわかってくれて、掲載に至った写真でもあったので印象的ですね。
さらに、オレクサちゃんは、良いページにしたいから何度でも撮り直すと言ってくれたり、撮影に対してすごく協力的で、それだけ自分の夢をちゃんと伝えたいという熱い想いがあるのだなと感じて感動しました。
きむ:Googleのストリートビューでロケハンしたっていうのはおもしろいね。一人一人の暮らす場所にまるでいるかのように闊歩して撮影場所を決めるっていうのはすごい作業だなと思います。どんな写真にするか意見の違いもあったけれど、そういう作業をしてまで等身大の姿を伝えたいという想いが本当に伝わったよ。
日比:そうですね。ストリートビューで現地にいるような気分で歩きまわり、ぴったりな撮影スポットを見つけたら、「この海岸のこの土手で撮ってください!」など、細かく指示したこともありました。
きむ:普段とは違う「リモート撮影」で、実際に行けない場所での会えない人との撮影でしたが、難しかったことはありましたか?
日比:全く会えない人に撮影依頼書を送って写真を撮ることは、最初から難しいなと感じていました。
普段写真を撮る時は、被写体の人と話して、その人のいいところを知ったり、好きになるくらいの気持ちを持って、その人に興味を持ってから撮影する、ということをしていたんです。そうしないと自分もその人も構えてしまうので、その人の良さを引き出すために必ずそうしてから撮影を始めるのですが、今回それが全くできない。
なので、この撮影が果たしてうまくできるのか、どうしたらいいのかとすごく悩んでいました。ですが、それでもこの本をつくりたいと思ったので、先ほど話したように、ストリートビューでその人が暮らす街を歩いたり、その人の夢を何回も何回も読んだり、本来の撮影と同じように、できるだけその人の情報を集めるところから始めました。
いろいろ情報が増えてくると、ちょっとずつその人のことをわかっていくような感じがありました。そうするとこの人にはこんな服が合うんじゃないかとか、こんな表情がいいんじゃないかということが想像できるようになっていって、そこでやっと撮影の指示ができるようになりました。
そのため、その人一人一人の情報を自分に落とし込んでいく作業に、すごく時間をかけました。これが一番難しかったことですね。
各国の代表者に送付した撮影依頼書
きむ:なるほど。最初この仕事をお願いしたときびっくりしてたもんね。(笑)
でも、ストリートビューを使ったり夢を読んだり、できることを最大限にして、その人の等身大の姿をイメージしてくれてたよね!
日比:そうですね。でもそうやって、こういう服装で、こういう天気の日に、こういう場所で撮ってほしいというイメージがあって指示をだしても、当時はコロナの状況もあって、国によってはロックダウンが起こり、家から出られないという人もいたんです。例えばバチカン市国のトマッソ・ブトさんの写真は、最初は大聖堂の前で撮ってほしいという依頼をしていたのですが、ロックダウンで家から出られない状況だったので、急遽ローマの街が見える自宅の屋上から撮影してもらったりしました。
そういった人が何人かいたのですが、やはりその人が暮らす場所がわかる写真がほしかったので、締切も心配でしたが、ロックダウンが明けるぎりぎりまで待ったりしていました。
そういう意味では、このコロナ禍の影響というのも大変でしたね。
写真の力を実感し、自分の夢に出会えた。
きむ:自分で撮影ができないという歯痒さもある中、「リモート撮影」というものを通して、写真というものが日比くんの中で変化したと感じたことがあれば教えてください。
日比:一つは、「写真の力」をあらためて感じたということです。
今回はリモート撮影で自分が直接撮影したわけではないけど、自分がディレクションした写真で本ができて、その本を見た人から「写真がいいね」という言葉をたくさんいただきました。
テキストではなく、写真でしか感じることができない魅力を感じてもらえて、あらためて写真の力を知れた気がしますし、さらに写真が好きになりました。
もう一つは、自分自身の夢ができたことです。
いろは出版でずっと夢の本に写真で関わってきて、(2016年出版の『3.11からの夢』の撮影も担当)人に夢は聞くけれど自分の夢は言葉にできませんでした。
でもこの本をつくってきて、自分のためにも、人のためにも夢を持っている人の写真を撮り続けたいという夢ができました。
だれかの夢を聞くことって、涙が出るくらい感動する。だれかの夢をずっと見続けて、写真を撮り続けるという人生ってすごくいいなと感じました。
そしてそれを見てくれた人が、感動したり、共感したりしてくれるきっかけになってくれたらいいなと思います。
きむ:夢を撮り続けるカメラマン。いい夢だね。次作をつくるときは、今度こそ直接会って撮ってもらいたいな。
世界を身近に感じ、世界とつながるきっかけとなる本。
きむ:『WE HAVE A DREAM』の魅力とはずばりなんでしょうか?
日比:この本を読むことで、どこか遠い国の他人事と思っていたことが、身近に感じるということだと思います。
僕自身はこの本をつくってから、ニュースで国の名前を聞くと、夢を語ってくれたその国の代表者の顔が思い浮かぶし、言い過ぎかもしれないけど、その国で事件があったことがわかると、友達が困っているのを心配する感覚で見てしまうくらい身近に感じるようになりました。
この本を読んで、世界の国々に興味を持ってもらえると、夢のこと以外でも、この国に行ってみようとか、この国の人とSNSで連絡とってみようとか、小さなきっかけができて、そこから何かが生まれるかもしれない。その小さなきっかけとなれる本であるということが、この本の魅力だと思いました。
きむ:まさにこの本が伝えたいことを、日比くんが制作しながら体感してくれているのだと感じました。
日比くん、ありがとうございました!
カメラマン 日比さんのインタビューをお届けしました!
次回はこの本の発起人である、WORLD DREAM PROJECTの太一さん、伊文さんにお話を伺います。
公開は7月下旬予定!公開時にはSNSでお知らせいたしますので、ぜひフォローして楽しみにお待ちください。
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